提言・調査・報告
要望書「美術家を労災保険の特別加入の対象とすることに関わる要望書」[2024.01.23]

厚生労働大臣
武見 敬三 様


美術家を労災保険の特別加入の対象とすることに関わる要望書

日本美術家連盟は、昭和24年創立の美術家の職能団体です。全国に約4400名の会員を擁し、美術家の福利厚生の向上、権利擁護、国際交流、美術の振興等を目的とした事業を実施しています。

一昨年より、個人事業主、フリーランスのセーフティネットの整備のため、国が労災保険の特別加入の対象分野を拡大し、芸術分野において実演家とアニメーターが追加されたことを、同じ芸術分野の創作者として大きな関心をもって見ておりました。

私共美術家は、基本的には一人一人が作家として活動する個人事業主となります。作品の制作、販売、展示が主たる業務となります。 作品制作にあたっては、電動工具を含め、操作に危険の伴う用具、機械の使用や、表現の媒体により溶剤等の使用もあります。展示の際の高所作業や、搬送の手配等も含め、事故やケガ等の危険と隣り合わせの仕事も多くあります。近年、作品の大型化や野外作業の増加等により、その傾向はますます強くなってきています。

一昨年、私共は会員の仕事中の傷病の実際を把握するため、事故事例のアンケート調査を実施しました。その結果、約1000の回答の中で、制作に由来するケガや病気を経験したことのある者は200弱、同様に仕事に由来する移動中の事故等のケガは100名の方が経験されておりました。その中には、骨折や指、神経の切断等の重篤なものや長期にわたる入院加療を要したものも多く含まれております。多数の方は、療養に要した費用を自らが負担しており、仕事の中のケガが経済的な意味でも、創作活動の中断という意味でも多くの困難をもたらすことがうかがえます。

このような実情に鑑み、国がフリーランスのセーフティネット構築を進めるにあたり、美術家をも労災保険の特別介入の対象としていただくことを強く要望いたします。

この制度改正により、美術家は安心して美術の仕事を継続し、また万が一事故にあった場合にも、その経済的な支えを得て生活を維持し、創作活動を再開することができます。

美術家による継続的な制作活動は、多様な美術表現を地域と日本にもたらし、多くの国民が豊かな芸術体験を持つことにつながります。文化芸術を支える基盤整備を進める意味でも、美術家を特別加入の対象としていただくよう制度改正を是非お願いいたします。



令和6年1月17日
一般社団法人日本美術家連盟
理事長 中林 忠良